今回は850 hPaと700 hPaの予想天気図の読み方を解説します.
850&700 hPaの高度と天気図としての役割
850 hPaは約1500 m,700 hPaは約3000 mの高度になります.850 hPaでは下層大気の温度分布を理解できます.700 hPaでは鉛直方向の流れ (上昇するか下降するか)を理解できます.下層のどんな空気が上昇するか?下降するか?それが降水につながるか?ということを推察します.特に低気圧解析には多くの情報をもたらします.
天気図に描かれる情報
今回は例として2022/06/12 21:00の12時間後の予想天気図,つまり2022/06/13 9:00の予想を見ていきます.ここには3つの情報が描かれます.
・850 hPaの等温線:3℃ごと.
・850 hPaの風向風力.
・700 hPaの鉛直p速度.
鉛直p速度とは,1時間あたりに気圧が何hPa変化するか (hPa/hour),を表す物理量です.鉛直p速度が正のときは気圧が大きくなる=下降気流で,負のときは気圧が小さくなる=上昇気流です.この天気図では鉛直p速度が負の領域が網掛けされています.
主な解析事項
まずは解析時刻の地上天気図をご覧ください.
日本のはるか東に974 hPaの低気圧があって,閉塞前線~寒冷前線~停滞前線と伸びています.温帯低気圧の分布から,寒冷前線の後面では下降気流が,前面では上昇気流が発生していると予想できます.また,寒冷前線と温暖前線の間には暖気移流が,寒冷前線の後面には寒気移流があると予想できます.
上昇流域・下降流域
鉛直p速度が負の領域,つまり上昇流域である領域を青塗りしています.先の地上天気図と照らし合わせると寒冷前線の前後で上昇流域・下降流域がきれいに分かれています.逆に言えば,上昇流域と下降流域の境界が700 hPaの前線に対応すると言えます.
暖気移流・寒気移流
850 hPaの等温線の分布から,暖気移流・寒気移流を推測できます.低気圧周辺を拡大したのが以下の図です.等温線を赤線で上書きしています.低気圧の東側では等温線が北に凸に,西側では南に凸になっています.これがそれぞれ,暖気が北へ運ばれている様子,寒気が南へ運ばれている様子を示しています.850 hPaの寒冷前線は,等温線の集中帯の南縁が対応します.今回の例では15℃の等温線に沿っていると考えられます.
低気圧の中心・閉塞点
鉛直p速度の極大値から低気圧の中心や閉塞点の位置が推定できます.今回の例では,-76と-79の2か所 (今回は紫字で強調)がそれぞれ700 hPaの低気圧中心と閉塞点であると考えられます.
850~700 hPaの前線位置の推定
ここまでの情報をすべて加味して緑線のように閉塞前線,温暖前線,寒冷前線の位置を推定します.低気圧の中心付近には暖気が流入しており,後面には寒気移流が見られます.鉛直p速度の極大値付近に閉塞点を推定し,そこから寒冷前線が伸びています.寒冷前線は,上昇流域と下降流域の境界が明瞭である北緯30°,東経145°付近まで伸ばしました.
この天気図では850 hPaと700 hPaの2つの気圧面の情報が含まれており,推定した前線がどちらの気圧面に属するかというのは限定できないので,850~700 hPaの前線面の推定としています.
まとめ
以上からこの予想天気図からは,次のことが解析できます.
・下層大気の温度分布から暖気移流・寒気移流や前線の位置.
・下層~中層大気の空気の上昇・下降や前線の位置.
これらの情報は特に低気圧の発達・衰退の解析に大きく貢献します.また,低気圧以外にも (総観規模で見た)局地的な空気の収束や,雨雪が降るか,推測できます.
本投稿は気象庁「数値予報天気図」を加工して作成しています。
気象庁 Japan Meteorological Agency (jma.go.jp)
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