シャトルバスから早朝便欠便の連絡

念願の南半球!ニュージーランド!火山帯の荒々しい絶景を歩けるなんて、最高に楽しみ!
目的地はトンガリロ・アルパイン・クロッシング。ロードオブザリングのロケ地でもある世界遺産の火山群を19kmにわたって縦走する、ニュージーランド随一の絶景ルート。しかし前日の12/31の夕方、シャトルバスの運営から連絡を受けた。
[TCS(シャトルバス会社)からの通知]
「明朝5:45の始発便は、悪天候予想のためキャンセル。7:30便以降の便に振り替えは可能。」
予報では最大風速18m/s、視程はわずか30m。追い打ちをかけるように、パーティ内には「防水手袋がない」という装備の不安も抱えていた。明日を逃せばその翌日は帰国だったので後ろ倒しにはできなかった。

18m/sって、風に向かって歩くのがやっとのレベルだ。。。明日の行程について考え直そうか。
行動準則の議論
気象状況の予測→リスクの定義→行動準則の決定の順で議論しよう。
情報の整理


まずはWindyで気圧配置を確認するか。。。
2025年12/31~翌2026年1/1にかけて、ニュージーランド中部を低気圧が通過した。北島の中央部にあるトンガリロ(赤矢印)に向かっては北西の風が吹いている。北島では西海岸からトンガリロまで目立った山岳地帯がなく、タスマン海からの湿った空気が流れ込んでくる。

日本では南の太平洋や東シナ海から暖かく湿った空気が流れ込むのと同じ考え方だね。
トンガリロをはじめとした山岳地形によって、湿った空気が斜面を上昇し、雨雲が発達していったと考えられる。
もう一歩踏み込んでみたい人へ [850 hPaの気温]


850 hPaの気温分布も見てみよう。NZ全体的に、より暖かい空気が北からやってきて覆っていると言えそう。暖かいということは、より水分を含むことができるから雨も強まりやすくなるね。日本でも、例えば夏の時期は850 hPa面で21℃以上の等温線が自分のいるエリアと重なると、特に暖かい空気が流れ込んでいると考える。そのような時、雨も強まりやすくなるから覚えておきたい。
リスクの定義
雨
前項の通り、北西の風が吹き続けると湿った空気が供給され続けるので、雨が続くと考えられた。濡れは必至だ。

基本の防水装備はあるけど手袋は防水じゃないな。。。
風
トンガリロから南西に向かって長い尾根が伸びる。トンガリロ・アルパイン・クロッシングのルートはその尾根の南側をはじめに通る。その後標高を上げてRed craterを最高地点とし、あとは下っていく。北西風の場合、始めはトンガリロ南西尾根に守られるが、South craterに差し掛かる頃になるとトンガリロを回り込んで風が抜けてくる。それ以降一部区間を除いて風を受ける区間が長く続く。

遭遇しうるリスク

濡れ×風で低体温症が一番こわいね!特に手袋が不十分ならば濡れてしまうとそこからどんどん体温を奪われてしまうかも!
行動準則決定
NZの気象サービスのアラート
NZではMetServiceが運用されており、主要な山岳地帯については予報がでている。風速や視程の条件によりアラートが出るようになっており、それを一つの判定基準とした。
朝6時にアラートが出ていたら中止にする。
最大到達地点を決める。
風に晒される時間が長くなると、低体温症のリスクを高めるだけとなるため、Red crater以降は行かない。それまでも、濡れと風で寒さを感じるメンバーがいるのであればその場で引き返す。引き返すことが前提となったので、シャトルバスはキャンセルとした。
Red craterを最大到達地点とする。
現場での判断

登山口のMangatepōpōに着くと、雲はまばらで雨もぱらつく程度だった。歩を進めるにつれ、谷の奥からガスが忍び寄ってきた。標高1200〜1300m付近より上部は、すでに厚いガスに覆われ、トンガリロから南西に伸びる尾根も、その姿を隠していた。

広い谷に入ると、尾根からの吹き下ろしの北西風を感じ始めたよ。

そしてSouth Craterへの登りはじめ、標高を上げると風が強まってきた。最後の登りの手前の平場にあがると、かなり風の強い状況で、体感10m/s弱だった。そこに至るまでも雨脚が強まって装備がかなり濡れてきてしまった。

装備もだいぶ濡れてきたし、ここから先も風が吹き続ける。残念だけど撤退しよう。
前夜の会議で決めた撤退ラインはRed Crater。しかし、この瞬間、その計画は完全に書き換えられていた。リスクが顕在化するまで待つのではなく、予測されるリスクの「兆候」が見えた時点で、判断を安全側にアップデートすることにした。

(写真右が北、左が南)
登山口まで戻ると晴れ間が覗いた。これを見ると、やはり行けたのでは、と思うがそれは罠だろう。しかし山の中は引き続きどんより。南西尾根も引き続きガスに覆われており、その尾根を越えた雲が蒸発して南側では雲が少なくなったと考えられる。
撤退は失敗ではない
行動準則を決める要素
- 気象条件の予測:天気図や地形図から自分が歩くルートの気象条件を推測する。
- リスクの定義:その気象条件で顕在化するリスクを整理する。
- 行動準則の決定:そのリスクを許容できるのはどこまでか?何時までか?どういう条件までか?によって決める。
「せっかく来たから」と突っ込んでいきたくなるが、その一言は「自分たちが判断力を失い、追い詰められている」サインである。山において「希望」は予測の材料にはならない。必要なのは「晴れてほしい」という願いではなく、刻々と変わる風向きやガスの動きから「今、山で何が起きているか」を読み取る客観性と思う。感情で結論を急がず、データと地形を信じた判断を下したい。

またニュージーランドに行く理由ができたね。実はロードオブザリング見たことなくて…。トンガリロに「見てから来い!」と言われたような気持ちです(笑)
登山行程
2026/1/1 9:00頃登山開始~10:30頃South Crater手前の平場~11:30頃登山口帰還

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