東京都山岳連盟気象委員会の実地講座として、上高地で「冬山の気象判断」を開催いたしました。ここでは、当日の天気を振り返りながら天気図を見ていきます。
当日の空の様子
9:00頃、釜トンネルと上高地トンネルの間から焼岳方面を望む。この時間は青空が見えつつところどころ薄い雲が見えていた。
10:00頃、大正池付近から岳沢方面を望む。雲は穂高の上部を覆っていた。
12:00頃、河童橋から岳沢方面を望む。上部は青空が垣間見えるものの全体的に薄い雲に覆われていた。
天気図で振り返る
地上天気図 (09:00)
日本海に低気圧が発生し、本州の南海上にも低圧部が形成されつつある状態であった。華南、太平洋、沿海州それぞれに高気圧があって、日本列島周辺は全体的に低圧部となっていた。とはいえ気圧傾度が大きい訳ではない。そのため、強い空気の収束や上昇流があった訳ではないと考えられる。また、地上天気図では弱いながらも気圧の谷が描画されている。この付近で弱いながらも空気が集まっているかと考えられる。
可視画像 (09:00)
09:00の可視画像である。朝鮮半島に近い低気圧付近では渦状になった雲群が見える。東日本は全体的に雲に覆われていて、特に地上天気図で気圧の谷として描画したエリアを中心に雲が分布していると読み取れる。可視画像では白く映るほど雲が厚いことがわかるが、この画像では白みは薄いほうである。
700 hPa(等高度線・等温線・湿数) (09:00)
こちらは700 hPa (約高度3000 m)の実況天気図である。緑の部分は湿潤域で、雲が発生しやすいエリアと言える。上高地は概ねそのエリアと重なっている。尚、図の掲載はしていないが、850 hPa実況天気図では日本列島は湿潤域にほとんど覆われていない。
輪島の高層観測結果 (09:00)
北アルプスの最寄りの高層観測点である輪島における、鉛直方向の相当湿度分布である。図としては見づらいが、湿度が90%を超えている高度を見ると1000 hPaより下層と、720~640 hPa付近である。明確な基準はないが、他の層よりも湿っていて、雲になりやすい環境であったと言える。これは、先の700 hPa実況天気図の湿潤域と重なる。
地上天気図 (12:00)
この時間になると南岸低気圧として解析されて描画してある。引き続き風は南西風で、気圧の谷も確認できる。気圧配置は大きく変わらないものの、気圧の谷はやや深まっている。当日は午後に降雪があったが、気圧の谷の深まりも一役買っていると考えられる(上昇流がやや強化されたか)。
以上から当日午前中は、弱い上昇流がありながら、700 hPa付近で雲が発生しつつ、南西から雲が運ばれてきていたと考えられる。なぜ700 hPa付近だけ湿度が高いかと聞かれると…それは難しい…。
本投稿は北海道放送「専門天気図」を加工して作成しています。
HBC 北海道放送 天気気象庁に認可された「独自の天気予報を発表できる」民間気象会社として、専属の気象予報士が予報した天気情報をお伝えしています。Webページはもちろん、ラジオ、テレビの天気予報をぜひ参考になさってください。
輪島のデータは気象庁「過去の気象データ」より取得、編集して作成しています。
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